498万円の敗北。不動産は迷うと死ぬ
高森町の498万円の物件。前回の視察で見つけた一軒だ。
価格は魅力だった。リフォーム済みで、明日からでも住める状態。だが、敷地は狭く、道路からの距離も近い。隠れ家としてのプライベート感は皆無だった。
「安いから」という理由で、ぼくは保留にした。フェンスを立てれば何とかなる。植栽で目隠しすれば誤魔化せる。そんなことを考えていた。
数日後、連絡が入った。別の誰かが買い付けを入れたという。
悔しいかと聞かれれば、半分はそうだ。だが、正直に言えばどこかホッとしていた。妥協しかけていた自分を、不動産のスピードが強制終了させたのだ。「安いから」で事業を始めるな、という警告だったのだろう。
不動産は迷うと死ぬ。この残酷なルールを、また一つ体に刻んだ。これで迷いは完全に消えた。残るは、大本命の800万物件との一騎打ちだ。
初期投資300万の「縛りプレイ」を捨てる
これまで、ぼくは自分に縛りを課していた。「手出しの初期費用は300万以内」。
持たざる者が、泥臭く挑む。車中泊をしながら山を整地し、DIYで仕上げる。そんなドキュメンタリーが美しいと思っていた。
だが、目的は何だ。ブログでウケることか。苦労話を量産することか。違う。目的は事業として勝つことだ。そして、生き残ることだ。
凍えながら車中泊をして体力を削る。安物の物件を買って、後から修繕費で苦しむ。それは戦略ではない。ただの自己満足だ。
ぼくの裏には封印していた1100万円の現金がある。さらに、公庫からの融資枠が500万円。合計1600万円。
このカードを切らずに、何を守っているのか。金は墓場まで持っていけない。だが、無計画に使えば死ぬ。だからこそ、ここで使う。
これは道楽ではない。絶対に死なないための、経営者としてのフルベットだ。無駄な縛りプレイは今日で終わりにする。
法律の壁と「ハイブリッド定住」戦略
予算を解放すると戦い方が変わる。
阿蘇の空き家バンクを活用するには「定住」が条件だ。住民票を移す必要がある。さらに、旅館業法の簡易宿所許可。これには「10分以内の駆けつけ」が求められる。
最初に考えたのは、極端な案だった。客に家を丸ごと貸し、ぼくは庭に停めた車で寝る。予約がある日は、凍える夜を過ごす。夢のためなら耐えられると、本気で思っていた。
だが、それは長期戦の戦略ではない。体を壊せば終わりだ。そこで出した答えが「ハイブリッド定住」である。
普段は阿蘇の物件で生活する。村人として暮らす。だが、ゲストの予約が入った日は違う。自分の私物は鍵付きの倉庫に収納し、ぼくは熊本市内の実家に帰る。
ゲストには完全な非日常を。ぼくには回復できる拠点を。
10分駆けつけのルールは、警備会社や地元の協力者と提携して担保する。自分一人で全部背負い込む必要はない。法律は敵ではない。ハックする対象だ。
「ゲストの体験価値」「自分の健康」「法令遵守」。この三つを同時に満たす形が、このハイブリッド定住である。情熱だけでは続かない。合理性があってこそ、事業は継続できる。
ラスボスへ
サファリシューズで山を切り拓く時間は終わった。ぼくは今、脱ぎ履きしやすいスニーカーを履いている。戦う場所が変わったからだ。
これから仕入れるのは、住まいではない。事業用の店舗だ。
現在、役場経由で不動産業者からの連絡を待っている。舞台は南阿蘇、331坪の巨大な平屋。この事業計画をすべて受け止められる器があるか、冷徹な目で査定してくる。
感情は持ち込まない。だが、覚悟は持っていく。

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